この記事は、私自身の乳がん治療・術後の経験に基づいて書いています。

「手術が終わったけれど、以前のように動けるようになるのかな……」 「大好きな趣味を、もう一度楽しめる日は来るんだろうか」

乳がんの術後、そんな漠然とした不安を抱えている方は少なくありません。私自身もその一人でした。私の目標は、「もう一度、雪山でスキーを滑ること」

しかし、現実は厳しいものでした。術後の体力の低下に加え、毎日のように続く放射線治療。大学病院への通院だけで精一杯で、ジムに通うような激しい運動は主治医からも止められていたのです。

そんな私が、スキー復帰を目指して取り組んだのは、特別なトレーニングではありません。

  • 放射線治療中の「通院ついで」の散歩
  • 雨の日でもできる、自宅の「14段の階段」活用術

これらは、元フィットネストレーナーとしての知識を活かしつつ、当時の私が「今の自分にできること」を積み重ねて辿り着いた、無理のないリハビリ方法です。

この記事では、私が放射線治療中から地域医療へ移行するまでの期間、どのようにして「日常の動作」を「スキーへのトレーニング」に変えていったのか、その具体的なステップをご紹介します。

この記事を読み終える頃には、きっとあなたも「今日から、家の中でできることがあるかも」と、前向きな気持ちになれるはずです。

放射線治療中の「ゆったり散歩」——通院時間をリラックスの時間に

放射線治療が始まると、毎日の通院が生活の中心になります。私の場合、遠方の大学病院まで電車とバスを乗り継いで通う日々でした。

待ち時間1時間30分を「自分時間」に変える

通院で一番の悩みだったのが、交通機関のダイヤと予約時間の「ズレ」でした。ちょうど良い便がなく、いつも病院には予約の1時間30分も前に到着してしまったのです。

当初は大学病院の待合室で時間を潰そうとしましたが、そこはいつも多くの患者さんで混み合っていました。周囲を見渡せば、私よりもご年配の方や体調が辛そうな方がたくさんいらっしゃいます。 「私の方がまだ若いし、元気。それなら席を譲らなきゃ」 そう思って立ち上がることが重なり、座って待つのもかえって落ち着かない……という状況でした。

そこで思いついたのが、「いっそ、この長い待ち時間をリハビリの時間にしてしまおう!」ということでした。

大学病院の緑地で「心の有酸素運動」

幸い、その大学病院は構内が広く、緑地化されている場所もありました。雨さえ降っていなければ、そこはまるで公園のような心地よい空間です。

有酸素運動の定説では「軽く息が弾むペースで」と言われますが、当時の私はあえてそのルールは横に置きました。

  • キョロキョロと季節の草花を眺める
  • 自分のペースでゆったりと歩く
  • 外の空気を吸ってリラックスする

放射線治療中は、身体的な疲れだけでなく精神的な緊張も大きい時期です。私にとってこの散歩は、単なる筋力維持ではなく、心を解きほぐすための「心の有酸素運動」でもありました。

大学病院の並木道を散歩する様子
当時の私にとって、この並木道は心を解きほぐす最高の『心の有酸素運動』の場でした。

日中は外の空気を吸ってリフレッシュし、夜は自宅で静かに心を整える。私が治療中の不安や副作用を和らげるために夜5分間行っていた『腹式呼吸とストレッチ』の習慣は、こちらの記事で詳しくご紹介しています。

駅まで往復30分の『歩くリハビリ』

病院での散歩に加え、もう一つの大切な習慣が「駅までの往復」でした。

自宅から最寄り駅までは片道15分、往復で30分の距離があります。治療で疲れている日はバスを使いたくなることもありましたが、「これもスキーに復帰するためのトレーニングの一つ」と考え、あえて徒歩で移動するようにしていました。

往復30分のウォーキングは、有酸素運動としても非常に適切な時間です。 「特別な運動の時間」を作るのは大変ですが、通院という「必ず行かなければならない移動」を運動に変えてしまうことで、無理なく体力を維持することができました。

大学病院卒業から地域医療へ——「動けない時期」の向き合い方

放射線治療の全行程を終え、大学病院での治療が一区切りついた時、大きな解放感がありました。
「さあ、ここからどんどん体を動かして、スキーに向けて本格始動だ!」
と意気込んでいたのですが、現実は少し違いました。

医師からの「ジム禁止」というアドバイス

大学病院の通院から卒業し、地域医療(地元のクリニックなど)へ完全に移行するまでの期間、主治医からは「ジムなどの激しい運動はまだ控えるように」と釘を刺されました。

元フィットネストレーナーとして、「早く筋肉を戻したい」という焦る気持ちは人一倍ありましたが、何よりも優先すべきは医師の指示と体の安全性です。 「動きたい、でも動けない」 この移行期のもどかしさは、当時の私にとって小さくないストレスでした。

ジムに行くのはおろか、当時は術後の影響もあり、朝起きるのすら体が重くて辛い日もありました。そんな『動けない時期』の朝を少しでも楽にするために、私が布団の中で実践していた習慣があります。

朝の体を少しずつほぐした後は、日中のリハビリ。ジムに行けないなら、家を『マイ・ジム』に変える工夫を始めました。それが我が家の14段の階段です。

ジムに行けないなら、家を「マイ・ジム」に変える

しかし、ジムに行けないからといって、リハビリを止めてしまうわけにはいきません。外に出られない雨の日や、激しい負荷をかけられない今の時期だからこそ、「日常生活の延長でできること」を見直すことにしたのです。

そこで白羽の矢が立ったのが、我が家の「14段の階段」でした。

雨の日も一歩ずつ。我が家の「14段の階段」トレーニング

ジム通いが制限される中で、私が注目したのは家の中にある「14段の階段」でした。

階段は、家にある「無料のステップマシーン」

なぜ階段だったのか。それは、階段を上る動作が、かつて私がフィットネストレーナーとして指導していた有酸素運動の定番「ステップマシーン」の動きそのものだったからです。

「わざわざジムに行かなくても、最高のトレーニング器具が家にあるじゃない!」

そう気づいた瞬間、14段の階段が私にとって大切な「マイ・トレーニングセンター」に変わりました。階段を一段一段踏みしめる動作は、下半身の大きな筋肉を使い、効率よく心肺機能を高めてくれます。雨の日で外に出られない時も、この14段があれば、いつでもトレーニングが可能になったのです。

自宅の14段の階段を上から見下ろしたところ
一段一段、ステップマシーンのように踏みしめて上る。それが今の私のトレーニング。

家事のついでに「プラス2〜3往復」からスタート

とはいえ、最初から何十往復もしたわけではありません。意識したのは「家事の動きに、ほんの少しだけプラスする」という方法です。

  • 2階に洗濯物を干しに行ったついでに、もう一度下まで降りて上り直す。
  • まずはプラス2〜3往復から。
  • 体調が良い日は少し増やし、疲れている日は無理をしない。

「トレーニングの時間」をわざわざ確保しようとすると、術後の体には負担になりがちです。でも、日常の動線に少しだけ負荷をプラスするこの方法なら、無理なく、そして着実に体力を戻していくことができました。

自宅の14段の階段を下から見上げたところ
最初はここを見上げて立ち尽くすことも。でも、『家事のついでに、もう1往復だけ』と自分に言い聞かせて。

14段の先にある「真っ白なゲレンデ」をイメージして

階段を一歩踏み出すとき、私の頭の中にあったのは、大好きなスキーの滑走シーンでした。 「この一歩が、雪山で踏ん張る筋力になる」 「この呼吸の乱れが、標高の高いゲレンデに耐える肺を作る」

ただの階段の上り下りだと思うと単調ですが、「これはスキーへの道なんだ」という目的意識を持つことで、一段一段に意味が生まれました。元トレーナーとしての知識と、スキーへの情熱。その両方が、14段の階段を「本気のリハビリ」へと変えてくれたのです。

医学的にも理にかなっていた「日常リハビリ」の根拠

「実は、私が無意識に行っていたこの『通院散歩』や『階段トレーニング』は、国立がん研究センターなどが推奨するリハビリの考え方とも一致していました。無理のない範囲で継続することが、医学的にも回復への近道だったのです。」

がんのリハビリテーションガイドラインでは、過度な安静よりも、体調に合わせた適度な身体活動が推奨されています。私が実践した「駅までの徒歩」や「階段の上り下り」は、倦怠感の軽減や筋力維持に有効な「低〜中強度の有酸素運動」に該当します。

リハビリの進め方について、より詳しく知りたい方は以下の公的資料も参考にしてみてくだ

リハビリの参考にしたい公的資料・動画集

主治医からの「GOサイン」と、待ちわびたゲレンデへ

大学病院を卒業し、地域医療へと連携される際、私はある選択をしました。それは、手術からこれまでの経緯をすべて知ってくれている主治医が、外部診療を行っている病院を選ぶことでした。

一から説明する手間を省きたかったのもありますが、何より半年以上かけて築いてきた主治医との信頼関係を大切にしたかったからです。

医師も驚いた「5月のスキー」

季節が春へと向かう3月。診察室で、私はずっと胸に温めてきた質問を、恐る恐る切り出しました。

「先生……そろそろ、スキーをしてもいいですか?」

先生は一瞬驚いた顔をして、「今年はもうスキー場もCLOSE(閉鎖)し始めているから、できないでしょ?」と笑いながら答えました。 けれど、我が家の習慣は5月のゴールデンウィークまで滑ること。それを伝えると、今度は「5月まで滑るの!?」と本気で驚かれてしまいました。

それでも、これまでのリハビリの積み重ねや私の思いを汲み取ってくださったのか、「無理をしない程度だったら、やってもいいよ」と、ついに念願の許可をいただくことができたのです。

赤倉観光リゾートスキー場での再スタート

そして4月。私たちが向かったのは、新潟県にある「赤倉観光リゾートスキー場」でした。以前も訪れたことがあり、ゆったりとした時間が流れる大好きな場所です。

ゲレンデに立ち、雪山の風を感じたとき、心から『戻ってこれてよかった』と思いました。 医学用語では**QOL(生活の質)**という言葉がよく使われます。人によってその定義は様々ですが、私にとってのQOLの向上は、再びスキーの板を履いて雪山に立つことでした。 あの14段の階段を一段ずつ上った日々が、この景色に繋がっていたのです。

私の頭をよぎったのは、あの「14段の階段」と「駅までの往復30分」の日々でした。 「あの階段が、私をここまで連れてきてくれた」 そう実感しながら滑る雪山の風は、これまでで一番心地よく感じられました。

赤倉観光リゾートスキー場、ゲレンデとホテルを山頂へ向かうゴンドラ内から撮影
あの14段の階段が、私をこの真っ白なゲレンデへと連れてきてくれました。

まとめ:リハビリは、自分らしい日常を取り戻すための旅

乳がんの術後、思い通りに動かない体に焦り、大好きな趣味を諦めそうになることもあるかもしれません。でも、特別な場所に行かなくても、リハビリは今日から始めることができます。

  • 移動をリハビリに変える: 通院の待ち時間や駅までの徒歩を味方につける。
  • 家をジムに変える: 14段の階段を「ステップマシーン」に見立ててみる。
  • 目標を力に変える: 「もう一度やりたいこと」を思い描きながら、一段ずつ上る。

私にとっての14段の階段は、真っ白なゲレンデへと続く、かけがえのない道でした。 まずは「家事のついでに、あと1往復だけ」。 その小さなしあわせの積み重ねが、きっとあなたを「あなたらしい日常」へと連れ戻してくれます。

焦らず、自分のペースで。今日の一歩を、大切に踏み出してみませんか?

【免責事項・主治医へのご相談】
本記事は執筆者の体験および一般的な知識に基づいた情報提供を目的としています。乳がん術後の経過には個人差があるため、リハビリや運動を開始する際は、必ず主治医にご相談ください。 詳細は、当ブログの[プライバシーポリシー・免責事項]をご確認ください。

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